
『僕たちは伝統とどう生きるか』
小倉ヒラク 著
この本を読み進める中で、
強く印象に残ったのは、
月の井酒造店(茨城県大洗)
石川杜氏からヒラクさんが受け取った
「つくる」と「できる」の違いでした。
いまの時代は、
「こうすればこうなる」という設計が先にあり、
そこから逆算して“つくる”。
けれど本来の営みは、
もっと曖昧で、もっと委ねられたものだったのだと思います。
昔の酒造りのように、
何ができあがるかは、その年の気候や環境、
人の手の感覚に委ねられていた。
そこにあったのは、
コントロールではなく、
「関わりながら引き出す」という姿勢。
パンも、まさにそうです。
発酵は、完全には支配できない。
だからこそ、日々のわずかな違いを感じ取り、
対話するように向き合っていくしかない。
「理解しようとするな、身体でわかれ」
この言葉が、ずっと残っています。
知識は、過去を整理することはできる。
でも、未来をつくるのは、身体に残った感覚だと思うんです。
手を動かし、時間を重ね、
身体に積み上がっていくものだけが、
伝統を“生きたもの”として繋いでいく。
そしてもうひとつ。
「大文字の伝統」と「小文字の伝統」。
制度や歴史として語られる「大文字の伝統」ではなく、
名前も残らない、土地に根ざした日々の営みの中で刻まれ、消えてしまいそうで、それでも人から人へと渡ってきた「小文字の伝統」。
パン屋という仕事もまた、
その「小文字の伝統」のひとつだと思いました。
大きな言葉にはならなくても、
日々の食卓に入り込み、
誰かの生活の一部になる。
それを、どう次へ渡していくのか。
この本は、答えではなく、
その問いを静かに置いていく一冊でした。
いまの時代だからこそ、強く思うことがあります。
戦争、温暖化、AI、様々な要因で
生業そのものが揺らぎ始めている今。
見直すべきなのは、
むしろこの「小文字の伝統」ではないか。
効率や再現性では測れない、
身体の感覚や土地との関係、
人と人の「あいだ」でしか育たない営み。
それらを、自分の中に刻み、
手から手へと渡していく。
AIによって、
近い将来、仕事を奪われるかもしれないと不安や恐怖に感じている人にとっても、
この視点はひとつの手がかりになると思います。
今なら、まだ間に合う。
僕は、パン(小文字の伝統)を焼き続ける理由が、これから先の未来でも自信を持てました。
小倉ヒラクさんの新著
『僕たちは伝統とどう生きるか』
(講談社現代新書)
書店販売(発売日)は、
2026年4月23日です。
皆さんも手に取って読んでみてくださいね!